ホスピス旅日記’97 ④ (第四回)

共存するということ
今回はシアトルでどんな人と出会い、どんなことをしているかを書いてみようと思います。


 シアトルに来て3ケ月になります。ぼつぼつ人との出会いが始まっています。

 

日本に関心を持っているあるアメリカ人に日本語を教える代わりに英語を習うという、つまり語学の交換をしばらくの問続けていました。毎日彼の家に出かけて行っては日本語を教えていましたが、いい英語の練習になっていたと思います。その家には4人の人が部屋を分け合って住んでいまいました。
 

テキサスからと東部のメーン州から来たアメリカ人2人と、トルコとメキシコから勉強をしに来た人とです。行くたんびにある日はトルコ料理をご馳走になり、ある日はメキシコ料理をご馳走になったりしました。

 

しかしこういったことはシアトルでは決してめずらしいことではなく、ごく普通のことなのです。別の知り合いでスイス人とアパートをシェアして住んでいる人がいますが、この前引っ越し祝いをした時に友達を呼んだらドイツ人と中国と韓国の人だったといいます。シアトルに住んでいると、こうして生活を通して多くの国の人たちと接する機会があります。


そのほかに外国人のために英語を話す機会を少しでもつくってあげようというボランティアグループがあり、シアトルには10ケ所くらいそういった集まりが図書館とか教会で行われています。週に2回くらいそういうところへも出かけます。

 

そこには実にたくさんの国の人たちが集まって来ます。主なところでベトナム、フィリピン、エチオピア、南米のアルゼンチン、コスタリカ、メキシコ、韓国、中国、香港、ドイツ、イラン、ウクライナといったところです。皆それぞれの事惜でアメリカにやってきた人たちですが、ある人は亡命に近い移民だったり、あるいは英語を学びに来ている人だったりします。

 

こういうところに参加していると、いながらにして世界で今何が起きているのか、またアメリカという国が世界にとってどういう存在であるのかということを、直に感じることができます。
 

例えばベトナムやフィリピンの人からは以前その国の政府にアメリカが強く一肩入れしていたことを思い起こさせますし、中南米の人たちからはアメリカの南米に対する強大な影響を知ることができます。

 

イランやウクライナの人から湾岸戦争やソビエトの崩壊に思いを馳せることができますし、香港からこのシアトルにも多くの人たちが移住してきていますが、香港の返還がもうすぐなのだとその人たちを通じて知りまず。このように新聞紙上からではなく、ここでは人を通して直に知ることができます。

 

国擦化ということが日本でもよく言われていますが、そこには外国の人とどう付き合っていこうかという視点はありますが、世界のいろんな人種の人たちが共存していくためにはどうすればいいかという視点ではないように思います。

 

日本ではこんな風にいろんな国の人が隣り合わせで住んでいるという感覚はなかなか実感できないことにもよると思いますが、しかし、アメリカにいようと日本にいようとやはり世界、あるいは地球という視点でものを考えるようになりたいと思います。今、そのためにたいへんいい経験をさせてもらっていると思っています。

 

 

ネットワークを張るということ
個人的なつながりとしては、ある一人暮らしの老婦人とか、市民病院のソーシャルワーカiの方とかと知り合いになり、自分の英語のためもあって、時々そういう方のところへ話しに出かけています。

 

2ケ月続けた、ケイロー・ナーシングホ-ムでのボランティアは今は止めて、チキンスープ・ブリゲートというエイズの人たちをサポートしている市民団体のボランティアに週1回行っています。

 

アメリカではボランティアが人々にとって社会的な関係を広げるひとつの場ともなっていますが、私にとっでもたいせつな人と出会う場になっています。チキンスープ・ブリゲートには若干のスタッフと約300人のボランティアがおり、家で暮らすエイズの人たちに食事をつくって配達したり、家の掃除とかいろんな世話をしたりしています。

 

ちなみにチキンスープ・プリゲートで世話を受けるエイズの患者さんは約900人だということです。私は食料の準備をする担当の方へまわっています。

 

さて、ホスピスの方ですが、1ケ月間に渡ったホスピスボランティア講座が終わったところです。この講座の中で、言葉の問題はあるとはいえ、いくども心にふれる体験をしました。詳しくはまた機会があれば書きたいと息いますが、喪失の体験を分かち合うとか、いろいろな学習をみっちりとやります。こういうボランティア講座はこのプロンピデンスホスピスでは年に3回くらい行なわれますが、今画、参加したのは私を含めて13人。ボーイング社を退職した人とか、女医の卵とか、ホームレスのための市の機関で働く人とかいろんな人がいましたが、みんな本当に個性もあり、やさしい人たちでした。このグループメンバーとは言葉の壁もとっくに越えて心が通じあったという気がします。

 

講座が終わって、これからが実地の始まりです。グルーブのひとりひとりがそれぞれの息者さんの家へこれから出かけていく訳です。しかし、このすてきな人たちがこの街のあちこちに散っていき、人々に会い、いろんな体験を積んでいくのだと思うどなにか心強い気がします。このグループの人たちとはいつまでもつながりを持っていたいと思っています。

 

また、少し前からホスピスの看護婦(看護士)さんに付いて息者さん宅を訪ねるということを始めています。ホスビスでのナースの役割というものをこれを通じて理解できればと思っています。

 

またいずれマークさんはじめソーシャルワーカーの人やチャプレンにも同行させてもらうことになっていますが、このようにしてホスピスの全体像をつかみたいと願っています。近く、ホスピスの多職種問で行う(いわゆる掌際的な)チームカンファレンスにも参加させてもらう予定です。

こういう訳で、アメリカ滞在の半ばになって、ようやく人との出会いが始まっていますが、残りの期間でどれだけこれを深めて行けるか、それはこれからの過ごし方にかかっていると思います。この短いアメリ力滞在の間に多くの人とのつながりの中ですこしづつネットワークを張っていきたいと思っています。一時問だけは無駄にしないようにと心がけています。

 

ではまた、みなさんもお元気で!